詩集 月に吠える 萩原朔太郎著

 

竹 

ますぐなもの地面に生え、
するどき青きもの地面に生え、
凍れる冬をつらぬきて、
そのみどり葉光る朝の空路に、

なみだたれ、
なみだをたれ、
いまはや懺悔をはれる肩の上より、
けぶれる竹の根はひろごり、
するどき青きもの地面に生え。

光る地面に竹が生え、
青竹が生え、
地下には竹の根が生え、
根がしだいにほそらみ、

根の先よりも繊毛が生え、
かすかにけぶる繊毛が生え、
かすかにふるえ。

かたき地面に竹が生え、
地上にするどく竹が生え、
まつしぐらに竹が生え、
凍れる節節りんりんと、

青空のもとに竹が生え、
竹、竹、竹が生え。

               みよすべての罪はしるされたり、
               されどすべては我にあらざりき、
               まことにわれに現はれしは、
               かげなき青き炎の幻影のみ、
               雪の上に消え去る哀傷の幽霊の
               み、
               ああかかる日のせつなる懺悔を
               も何かせむ、
               すべては青きほのほの幻影のみ。